がん患者のフレイル4

がん患者の高齢化に伴い,フレイルが問題視されるようになっています.このシリーズでは,がん患者のフレイルに関する研究をシリーズ化していきます. Augustinらは,NSQIPから膵臓がんの切除を行なった患者を抽出し,11項目で構成されるmodified frailty indexを使用してnonfrail (0ポイント), low frailty (1-2), intermediate frailty (3-4), frail (5以上)に分類し,術後アウトカムに与える影響を解析しました. 13020患者が対象となり,0.4%がfrailに該当しました.多変量解析の結果,modified frailty index が1ポイント上昇するごとに合併症発症(2-6倍),死亡(2-10倍)する確率が高くなることが明らかになりました.また,modified frailty indexを構成する薬物療法を要する高血圧やCOPDなどの8項目が死亡に対するリスク因子として抽出されました. modified frailty indexは多くの外科的手術を要した患者で術後アウトカムの予測因子となっており,本研究において,膵臓がん患者でも適応できる可能性が示唆されました. 参考文献Augustin T, Burstein MD, Schneider EB, Morris-Stiff G, Wey J, Chalikonda S, Walsh RM. Frailty predicts risk of li…

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がん患者のフレイル3

がん患者の高齢化に伴い,フレイルが問題視されるようになっています.このシリーズでは,がん患者のフレイルに関する研究をシリーズ化していきます. Mimaらは,膵臓がんに対して切除術を行なった18歳以上の連続症例142患者を対象に,フレイルが術後のrecurrence-free survival (RFS), cancer-specific survival (CSS), and overall survival (OS)に与える影響を分析しました.フレイルはClinical Frailty Scale (CFS)で評価しました. その結果,CFS 3点以下が80%,4点が9.2%,5点以上が11%となりました.多変量解析の結果,CFS 5点以上はCSS (HR: 2.49, 95% CI 1.05–5.34, P = 0.039),OS (HR: 2.25, 95% CI 1.05–4.43, P = 0.038)のリスク因子でしたが,RFS (HR: 1.47, 95% CI 0.71–2.83, P = 0.29)のリスク因子とはなりませんでした. CFSは最近日本語訳も発表され,ビジュアルも利用した簡便で評価しやすい指標かと思います.今後CFSを使用した臨床研究が期待されます. 参考文献Mima K, Hayashi H, Nakagawa S, Matsumoto T, Kinoshita S, Matsumura K, Kitamura F, Uemura N, Na…

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がん患者のフレイル2

がん患者の高齢化に伴い,フレイルが問題視されるようになっています.このシリーズでは,がん患者のフレイルに関する研究をシリーズ化していきます.Al Abbasらは,待機的に膵頭十二指腸切除術を行なった患者9867名を対象に,年齢や性別,BMIなどで構成されるより簡便な予測モデルを作成し,フレイル指標との予測能を比較しています.フレイルの指標は5項目とし,1.薬物療法が必要な高血圧症,2.うっ血性心不全の病歴,3.呼吸困難(中等度の労作時または安静時),4.ADL(日常生活動作の一部または全てが介助に依存している),5.非インスリン製剤またはインスリン療法を要する糖尿病としました.本指標の評価は,該当数のカウントとしました.この研究の予測モデル作成のアウトカムは,術後死亡,全合併症,重症合併症,膵液瘻,自宅退院不可としました. その結果,それぞれのアウトカムに対して,年齢や性別,BMI,ASAなどが予測モデルの因子として抽出されました.また,各アウトカムに対して抽出された年齢や性別などで構成された予測モデルの予測精度は,いずれのアウトカムに対しても5項目で構成したフレイル指標より高い結果となりました. 今回の研究は,膵頭十二指腸切除術を行なった患者を対象にした研究ですが,本疾患患者のフレイルに関する研究は決して多くはなく,今後の更なる研究が必要であると考えます. 参考文献Al Abbas AI, Borrebach JD, Pitt HA, Bellon J, Hogg ME…

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がん患者のフレイル1

がん患者の高齢化に伴い,フレイルが問題視されるようになっています.このシリーズでは,がん患者のフレイルに関する研究をシリーズ化していきます. Mogalらの研究では,膵頭十二指腸切除術を行なった患者を対象にフレイルが術後アウトカムに与える影響を解析しました.フレイルはNational Surgical Quality Improvement Program (NSQIP)から11項目で構成されるmodified frailty index (mFI)で評価し,0.27以上をHigh Frailtyを定義しました. 9986患者(平均年齢 65 ± 12歳,女性48.8%)が解析対象となりました.6.4%がHigh Frailtyと評価されました.交絡要因で調整した多変量解析の結果,high mFIは術後合併症 (OR 1.544; 95% CI 1.289–1.850)と30日死亡(OR 1.536; 95% CI 1.049–2.248)の有意な予測因子となりました. 本研究は,診療データベースを用いた大規模な研究で,術前のフレイルが術後アウトカムの予測因子であることを明らかにしています.術前のフレイル評価によるリスク管理が不可欠と言えそうです. 参考文献Mogal H, Vermilion SA, Dodson R, Hsu FC, Howerton R, Shen P, Clark CJ. Modified Frailty Index Predicts Morb…

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意思決定支援と期間限定トライアル

事例:患者さんは、少し息苦しくなりました。症状が軽かったので、車を運転して、病院に行きました。病院に着くやいなや、息苦しさが増しました。医師は、意識レベルが低下した患者さんをみて、家族に言いました。5分以内に気管挿管をするかどうか決めて下さい。家族は迷いましたが、これまで行ってきた人生会議で、本人が態度を決めかねていましたので、気管挿管を希望しました。その結果、よくなればいいし、本人の望まない結果になったら、チューブを抜きたいと医師に伝えました。医師は回答しました。5分、待てなかったので、既に、気管挿管を行ってしまいました。・・・・・先が分からない時、本人がはっきり拒否していないなら、期間限定のトライアル(Popovich、2023)は良い選択肢ですね。 [1]Popovich J, Budnick I, Neville TH. (2023) Time-Limited Trials of Intensive Care Unit Care. JAMA Intern Med ホームページ国立長寿医療センター老年内科HP 1国立長寿医療センター老年内科HP 2国立長寿医療研究センター老年内科レジデント・後期臨床研修医募集要項(募集中)

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