高齢者のためのレジスタンストレーニング 4 -高齢者の筋力低下のメカニズム-

「高齢者のためのレジスタンストレーニングシリーズ」の第4回目は,適切にレジスタンストレーニングを処方するために必要な知識として,加齢に伴うの筋力低下(ダイナペニア)のメカニズムについて簡単にご紹介いたします. ダイナペニアには‘neural’ と‘muscular’の両方の原因が関わっていることを以前ご紹介しました.ダイナペニアにおける‘neural’と‘muscular’ の原因を以下に列挙します. ‘Neural’ factors脊髄上層部からの下行性興奮性ドライブの低下による神経活性化の障害運動単位の最適な動員とrate codingの障害神経筋の伝達不全 ‘Muscular’ factors筋線維のアポトーシスや萎縮による骨格筋量減少興奮と収縮のアンカップリングactomyosinの構造と機能変化筋線維への脂肪細胞の浸潤 また,Neural factorの上流には認知機能が影響することも考えられ,ダイナペニアの生物学的メカニズムの理解は,レジスタンストレーニングの処方に非常に重要であると考えられます. 参考文献Fragala MS, Cadore EL, Dorgo S, Izquierdo M, Kraemer WJ, Peterson MD, Ryan ED. Resistance Training for Older Adults: Position Statement From the National Strength and Conditioning Associa…

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加齢と膵臓の構造・機能①

膵臓の外分泌能は、加齢によっても通常の消化能力を維持するための十分な予備能力を持っているといわれています。いくつかそれと矛盾する報告もある一方で、高齢者で膵臓外分泌系の臨床的に重要な減少があるというエビデンスはほとんどありません。 解剖学的、組織学的な加齢に関連した膵臓の変化は、70歳代以降の膵重量の減少、導管上皮の過形成、腺房細胞の脱顆粒などです。セクレチンに反応して分泌される重炭酸塩や酵素の量は高齢者でわずかに減少することが報告されています。 動物実験では様々な加齢と膵臓機能の関連が報告されていますが、膵臓の外分泌能の維持能力を考慮すれば、健康なヒト高齢者において臨床的な重要性は疑わしいともいえます。 ホームページ国立長寿医療センター老年内科HP 1国立長寿医療センター老年内科HP 2

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久山町研究

九州大学の二宮らの共同研究グループは、2021年7月30日、「久山町研究」の追跡調査の成績を用いて、10年後の認知症発症リスクを予測するためのツールを開発したと発表しました。 久山町研究とは、福岡県久山町の住民を対象とした生活習慣病の疫学調査で、50年以上にわたって続いている研究です。今回は、その住民の中から、認知症のない65歳以上の795人を24年間前向きに追跡調査しました。 結果、追跡期間中に364名の被験者が認知症を発症しました。統計的予測モデルでは、年齢、女性、低学歴、痩せ型、高血圧、糖尿病、脳卒中歴、喫煙、座り仕事が予測因子として選択され、10年後の認知症発症確率を高い精度で予測できることを明らかにました。 また、この予測モデルを元に簡単に計算できる簡易スコアを作成しました。 将来、認知症になるリスクの高い人を特定するために実用的なツールであり、発症リスクが高い人を早期発見し、適切な予防的介入やケアにつなぐための重要なツールであると、筆者らは述べています。 出典:九州大学 ホームページ国立長寿医療センター老年内科HP 1国立長寿医療センター老年内科HP 2

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緑茶摂取とインフルエンザとの関係性を紹介します

複数回に渡って緑茶摂取の有効性について紹介してきました。今回は緑茶摂取がインフルエンザ感染のリスクを低下させる可能性を示唆している研究を紹介します。 Nanriらは、関東・東海地区の日本人労働者を対象に、緑茶摂取とインフルエンザの関連性を検討しました。2011年の緑茶摂取頻度と2011年11月から2012年4月の冬期に発生したインフルエンザを調査しました。最終的にデータ欠損がない170人の症例と353人の対照が分析対照に含まれました。緑茶摂取が週1杯未満摂取と比較して、週5杯以上摂取した場合、インフルエンザ発症のオッズ比は0.61 (95%信頼区間 0.39-0.95)であった。 著者らは緑茶の摂取がインフルエンザのリスク低下と関連することを示唆していると結論づけていました。 Nanri A, Nakamoto K, Sakamoto N, Imai T, Mizoue T. Green tea consumption and influenza infection among Japanese employees. Eur J Clin Nutr. 2021 Jun;75(6):976-979. doi: 10.1038/s41430-020-00792-3. Epub 2020 Nov 2. PMID: 33139853. ホームページ国立長寿医療センター老年内科HP 1国立長寿医療センター老年内科HP 2

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高齢者のためのレジスタンストレーニング 3 -骨格筋量から筋力へのパラダイムシフト-

老化マーカーとしての筋力の重要性 -骨格筋量から筋力へのパラダイムシフト-  高齢者のためのレジスタンストレーニング 2でご紹介した通り,Resistance Training for Older Adults: Position Statement From the National Strength and Conditioning Association. では,握力(筋力)低下を「老化のバイオマーカー」と表現し,臨床的観点からは骨格筋量減少より重視する必要性について言及しています.この点に関して,Position Statementに引用されているClark BCらのReviewを中心に簡単に解説します.  まず,元来は「身体機能」が直接的にdisabilityに繋がる重要な要因であると考えられていました.その後の研究で,身体機能と骨格筋量は関連性に乏しいことが分かってきました.一方で,握力と膝伸展筋力は,骨格筋量を調整しても死亡に影響することが明らかになりました.これらのことから,以前は骨格筋量の重要性が支持されていた一方で,最近は筋力低下の重要性がより注目され,老化マーカーとしてのパラダイムシフトが起きていることを示唆しています.強い随意的筋力を発揮するためには,‘neural’ と‘muscular’ factorsの双方が必要です.また,筋力は骨格筋量より早期に減少することが報告されています.これらのことからも, 単に骨格筋量だけでなく,神経筋機能全体が高齢者の健康を決定す…

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